今後の保全管理に向けて 2014.05.04 岸一弘
生物多様性を保全するためには、環境の多様性を維持することが不可欠。
保全管理に当たっては、「生態系管理」と「順応的管理」の視点が重要。
※生態系管理(Ecosystem Management):生物多様性の存続と回復を目的として、生態学に基づく地域固有の生態系特性に留意した管理。
※順応的管理
生態系管理を行っても計画どおりに生物を保全できるとは限らない。そのリスクを予め考慮し、一度に広範囲を管理せず、管理範囲は一部にとどめる。作業後に継続的なモニタリング評価を行い、随時管理方法の見直しと修正を行う。
◆さまざまな湿地環境の保全
今ある湿地環境の多様性を維持する。
①水田、②低茎湿性草地(イヌスギナなど)、③高茎湿性草地(ヨシ、ガマ、ショウブなど)
・小規模な水位の低い水たまりが点在する低茎湿地:シオヤトンボの主たる生息地となる。
・ショウブ:幼虫がショウブの葉を食べるツマキホソハマキモドキが生息する可能性あり。
・ヨシ原:小型のコオロギ、キンヒバリが生息する可能性大。
・もしオギ原もあれば、カヤネズミの主たる生息地となる。
◆「もし谷戸底が水田だけになると」
水田環境が必要なトウキョウダルマガエル、シュレーゲルアオガエルにとっては良いが、湿地環境に依存する生物は棲めなくなり、谷戸全体の生物多様性が低下してしまう。
◆水田環境の多様性維持
①周辺に多様な環境があり、②湿田で、③農薬や機械力をあまり使わない、④水路は土水路を維持するなどの条件が満たされた水田であれば、生物多様性が高く保たれた水田となる。
◆草地管理の留意事項
草地環境に依存する小動物は少なくないので、一度に草地全体を刈り込んではいけない。刈り込む場合も、地上から15㎝を残すというような配慮が必要。
チガヤ、ススキ、オギ、ヨシなどのイネ科植物の茎の中に卵を産む昆虫類(オナガササキリなど)や茎の中で越冬する昆虫類、それらの昆虫類を餌とする鳥類のために、冬期に枯れた茎を残す配慮が必要。
◆里山管理は生物多様性を保全できるのか
かつての里山管理は手作業で行われ、管理する人数も少数だったため、結果的に生態系管理と同様な管理が行われており、生物多様性は保全されていた。
現在では刈り払い機・チェーンソウといった機械力を使うことで手作業の人の十倍~数十倍の作業を一人でこなすことができるため、意識して生態系管理を行わないと、生物多様性の低下を招く危険性が高くなる。
◆同じ環境を維持しているのにタコノアシが消えてしまったのはなぜか
タコノアシは攪乱を受ける環境下で生育し続けるので、同じ環境が維持されていると消えてしまうことがある。土を掘り返して小規模な攪乱を起こすと、埋土種子(胞子)が発芽することがある。他の草本類やシダ類でも同様の事例が見られる。
◆オオフサモ
谷戸内でオオフサモの繁殖が確認された。オオフサモは、谷戸内で「特定外来生物」、「日本の侵略的外来種ワースト100」に位置づけられており、その強い繁殖力で生態系を攪乱してしまう恐れが強い。外来生物法により特定外来生物に指定されると、移入は禁止となり。栽培も研究目的で外部への逃げ出しがない場合を除き原則禁止となる。
早い時期に駆除することが望まれますが、少なくともこれ以上分布が広がらないような対策が急務。 戻る